02:21 08-12-2025
NIMSが開発した多層カーボン膜でリチウム空気電池が高安定・高密度化、EVのレンジ不安を解消へ
日本のNational Institute for Materials Science(NIMS)の研究者が、リチウム空気電池の実現に向けて大きく前進したと発表した。理論上はガソリン車に匹敵する航続距離をEVに与え得る技術で、鍵を握るのは、酸素とリチウムの関わり方を精密に制御する新型のカーボン膜だ。机上の話にとどまりがちな領域だが、今回は材料設計の工夫が具体的な手応えをもたらしている。
この系のアキレス腱は、安定性の低さと容量の早い劣化にあった。チームは、2〜50ナノメートルの範囲でマイクロ、メソ、マクロの細孔を組み合わせた多層の多孔質膜で対処。これにより酸素の分布が均一化され、電解液の損失が抑えられ、セルの熱安定性も向上した。
結果は明快だ。プロトタイプは360 Wh/kgに到達し、現在のリチウムイオン電池のほぼ倍に相当する。計算上は将来的に700 Wh/kg超が見込まれ、理論的な上限は約11,000 Wh/kgと、ガソリンのエネルギー密度に近づく。試験では6つの電極が19サイクルを性能劣化なしで完了しており、この種の電池としては珍しい挙動も示した。
スケールアップの兆しが見える点も重要だ。研究チームは10×10センチの大型電極の製作に成功し、純粋なラボ段階から初期のプレ工業段階へ移行しつつあることを示唆する。リチウム空気電池は周囲の空気から酸素を取り込むため、セル内部のスペースを有効に使え、エネルギー密度の押し上げにつながる。
この処方は、電気自動車はもちろん、軽航空機や携帯機器など重量が効く分野でとりわけ相性が良さそうだ。もし量産にこぎ着ければ、EV市場の地図は大きく塗り替わる可能性がある。現行パックの2〜3倍のエネルギー密度が見えてくれば、いわゆるレンジ不安は後景に退き、ガソリン車にとっては手強い相手になる。ハードウェアのスケールに合わせて耐久性とサイクル寿命がついてくるなら、分岐点は射程に入った——数字がそう語っている。