フォルクスワーゲンは少しずつオープンカーの時代に別れを告げつつあるが、ブランドの中でも異色の存在であるT‑Roc カブリオレは、思わぬ延命を勝ち取った。生産終了は当初2025年の予定だったが、ソフトトップ車を得意とするオスナブリュック工場が猶予を確保。締め切りはまず2027年夏へ、そして現在は2027年末まで後ろ倒しになっている。

大幅な改良は行われない。デザインもメカニズムも装備もそのままに、T‑Roc カブリオレは現行仕様でラインオフを続ける。受注生産への切り替えは、無理なく需要に合わせられる現実的な打ち手だ。生産は受注分に限られ、市場によっては既に姿を消し始めた。オランダでは割り当てが出尽くし、追加供給を延長する意義はないとフォルクスワーゲンは判断しており、新規注文は受け付けていない。一方、スペインなど南欧では関心が安定して続いている。

フォルクスワーゲン T‑Roc カブリオレ
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T‑Roc カブリオレの勢いは偶然ではない。欧州での6年間でニッチながら指名される存在となり、とりわけ地中海リゾートのレンタカーでは、手頃なオープンカーへの需要が根強く、重宝されてきた。クロスオーバーやEVへと重心を移しつつあるフォルクスワーゲンにとっても、そうした現実は想定以上の延命につながった。日差しの強い市場にも、数字の論理にも合致する、割り切った選択だ。

その結果、ビートル カブリオレ、ゴルフ カブリオレ、イオスの系譜を継ぐT‑Roc カブリオレは、社内で想定されたスケジュールさえ上回って存続し、ブランド最後のオープンモデルとして、販売期間がほぼ10年に及ぶ稀有な存在になりつつある。