年間で100件を超えるリコールのあと、フォードは「Owner Retention Certificate(オーナー維持証)」プログラムを立ち上げた。繰り返す不具合に見舞われ、ブランドへの信頼を落とした顧客を念頭に置いた施策だが、表立っては告知されない。利用できるかどうかは販売店の裁量に委ねられている。静かに始まったのは、ユーザーが背を向ける前に関係をつなぎ止める、現実的で地に足のついた打ち手と映る。

内容は、現在保有する車両のメーカー希望小売価格(MSRP)の10%相当を割り引くというもの。新車のフォードでは最大6,000ドル、リンカーンでは最大10,000ドルまでが上限だ。一方で、F-150ラプターをはじめ一部モデルは対象外。看板車種には明確な“ガードレール”を設け、線引きは相当に厳格だ。

適用には条件がある。車齢36カ月未満、走行距離は36,000マイル(57,960km)まで。レモン法の対象となる車両やカリフォルニア州の顧客はプログラム適用外となる。広くばらまく優遇ではなく、再発トラブルのケースに狙いを絞るための、意図的にタイトな設計だ。

経営陣は、繰り返す不具合で離れかけた購入者を引き留めることが狙いだと示唆している。また、この取り組みは新たなプロセスやモニタリングツールの導入など、フォード全体の品質強化の動きと補完関係にあるともしている。短期的な痛点に手当てしつつ、中長期の改善を根付かせるための“つなぎ”として機能させる——そんな位置づけに読める。