見た目は控えめなのに、走りはスポーツカー級。そんな“スリーパー”と呼ばれるセダンがある。狙いは単純で、力を見せびらかさずに、バッジや派手なボディキットだけを当てにする相手を不意に驚かせること。実際、米国の中古市場を見渡すと、こうしたモデルの多くが1万5,000ドル未満に収まる。ただし落とし穴もある。もともとプレミアム出身ゆえ、購入時の節約分が維持費へと姿を変えるのは珍しくない。結局のところ、疲れた個体を安くつかんで長年手当てを続けるより、状態の良い一台に余分を払うほうが、総額では得になることが多い。

BMW 5シリーズ 550i(とくにF10)

定石は明快。4.4リッターV8ツインターボで400hp、0–60mphはおよそ5秒。外観はあくまで普通の5シリーズだが、日常域の押し出しはMカーに肉薄する。狙うなら、整備履歴がしっかり残る個体。ターボ付きV8では冷却系と潤滑系の健全性が肝心だ。

フォルクスワーゲン フェートン W12

珍しい選択肢。重厚で静か、交通の流れに紛れて目立たないのに、6.0リッターW12・420hpと四輪駆動を積む。見返りはリムジン級の快適さ。一方で機構が複雑で、細かなパーツでもこの手の車では安く済まないことが多い。

アウディ S6(C6) 5.2 V10

音とキャラクターに価値を置く人向け。自然吸気の5.2リッターV10は429hp、四輪駆動で、0–60mphは約5.2秒。気持ちを揺さぶる一台だが、購入前の徹底した点検を前提にしたい。

ボルボ S60 T8 ツインエンジン

ボルボ S60 T8 ツインエンジン
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ここでの妙味はハイブリッド構成。ターボ付き2.0リッターに電動モーターを組み合わせ、四輪駆動でシステム合計はおよそ400hp。俊敏さと効率の両立が可能だが、高電圧系への気配りと計画的なメンテナンスは欠かせない。

キャデラック STS-V

スーパーチャージャー付き4.4リッター・ノーススターV8は469hp。アイドリング付近から力強く、アメリカ流の快適さに、路上での希少性が加わる。年式とモデル特性を踏まえれば、怪しい改造のない、履歴が明快で大切に扱われてきた個体を粘り強く探すのが賢明だ。

結論として、最高のスリーパーは出力がいちばん高い一台ではなく、状態がいちばん健やかな一台。購入後はあくまでプレミアム車の現実が待っている。だからこそ、きちんとした点検、裏付けのある整備記録、そして現実的な維持費の予備費——この三つが勝敗を分ける。